ALSの父と眼球運動を使ったコミュニケーションを取ろうとした話

2016年3月12日・13日に横浜で開催された難病コミュニケーション支援講座に参加してきました。
そこで学んだテクニックを使って父と10ヵ月ぶりにコミュニケーションを取ることが出来ました。その紹介の前にまずは最近の父の眼球の動きについて簡単に解説。

1.父の眼球の動きの変遷

2014年4月ごろ
・身体で動く箇所が眼球のみになる。
・マイトビーを操作可能

2015年5月初めごろまで
・ゆっくりと眼球を左右に動かすことが出来た
・目を開ける力がなくなってくる。介助者が目を開くことでマイトビー+自作プログラムを何とか操作可能

2015年12月ごろまで
・眼球を左右に動かすことが出来ない
・わずかに薄目を開けることができる。

2016年3月ごろ(現在)まで
・薄目を開けることはできない。
・一見すると眠っているように見える

2015年5月からマイトビー+自作プログラムが使えなくなり、それから2016年3月までの約10ヵ月間、父とコミュニケーションは取っていませんでした。ハイテク機器がないとコミュニケーションは取れないと思い込んでいました。

2.究極のコミュニケーションメソッド

そんな時上記講座で狭山神経内科病院の言語聴覚士である山本直史先生と出会いました。狭山神経内科病院には父と同じような症状を持った方が多くおられ、先生はその方たちとのコミュニケーションに関する技術をお持ちでした。

先生から教わったメソッドを家に帰って早速実践。すると、
「動いた!!」
腰を抜かすほど驚きましたが、明らかに父の目が意思を持って動きました。

その動きを使って言葉を読み取ると、まず父は今の生活の問題点を指摘しました。
その改善のために訪問看護師の方と相談し、実際に改善が行われました。
父自身の言葉によって父の現実が動いたのは、10ヵ月ぶりのことです。

以下に父に行っているメソッドを紹介します。

3.コミュニケーションのための前準備

コミュニケーションを取るためには、まず父が起きて(覚醒して)いなければいけません。
しばらく話しかけたり、肩をぽんぽんと叩いたりしてしてこちらに注意を向けてもらいます。
いろいろな時間帯で試しましたが、今は深夜の方が覚醒する可能性が高いことが分かりました。

覚醒判別法

覚醒しているのか眠っているのかをある程度判別する方法も見つけました。
それは「唾液の量」です。覚醒していると「唾液の量」が急増します。
唾液を吸うためにキッチンペーパーを口に挟む習慣があったので、その紙の濡れ具合で判別できました。

4.父とのコミュニケーションの方法

  1. 「言いたい言葉を思い浮かべてください」と父に対し言う。
  2. 「その最初の文字は、『あかさたな』行の中にありますか?」と質問する。
  3. 「私がこれからあなたの右目を10秒間開きます。もしYesならその間に『目を閉じる動作』をして下さい。せーの」と言って父の右目を開ける。
  4. 右目を注意深く観察する
    ・Yesなら眼球がゆっくりと上に上がる
    ・Noなら動かない
  5. 規定時間(10秒)が経過したら右目に目薬を差す。2の質問内容を変えて2~5を繰り返す。

目を閉じる動作

コミュニケーションの取れなかった10ヵ月間、父に「目を動かして」と何度か言ってみましたが、こちらの期待通りに動くことはありませんでした。
今回の方法では「目を動かして」ではなく、「目を動かさなくていいから目を閉じて」と言っています。
目を閉じる動作をすると眼球が自然に上に上がるので、眼球の動きをこちらが認識できます。
おそらく「目を閉じる」動きは「目を動かす」よりも楽なのだと思います。
目が乾くのを防ぐために、目を開けているのは10秒間に限定して、最後に必ず目薬を差すようにしています。

50音表の絞り込み

基本的に質問はその逆の質問とペアで聞いていきます。この質問のペアを使って50音表を徐々に絞り込んでいきます。
例えば父の言いたい言葉の最初の文字が『べ』だったとします。

1-a.「あかさたな」行の中にある?→No
1-b.「はまやらわ」行の中にある?→Yes
「はまやらわ」行に確定。
2-a.「は行」「ま行」の中にある?→Yes
2-b.「や行」「ら行」「わ行」の中にある?→No
は行・ま行に確定。
3-a.「は行」の中にある?→Yes
3-b.「ま行」の中にある?→No
「は行」に確定。
4-a.「は」「ひ」の中にある?→No
4-b.「ふ」「へ」「ほ」の中にある?→Yes
「ふ・へ・ほ」に確定。
5-a.「ふ」ですか?→No
5-b.「へ」ですか?→Yes
5-c.「ほ」ですか?→No
「へ」に確定。次に濁点・半濁点を聞きます
6-a.「へ」ですか?→No
6-a.「べ」ですか?→Yes
6-b.「ぺ」ですか?→No
「べ」に確定。次の文字を聞く。

※両方Noの場合

例えば
「あかさたな」行の中にある?→動かない(Noの合図)
「はまやらわ」行の中にある?→動かない(Noの合図)
となる場合がよくあります。
考えられる原因は、覚醒していない、聞き取れなかった、目のコンディションがよくない、等いろいろ考えられますが少し時間を空けて同じ質問をします。多いときは3~4回同じ質問のペアを繰り返す時があります。

※両方Yesの場合

例えば
「ぬ」ですか?→Yes
「ね」ですか?→Yes
というように両方とも動いてしまうことがあります。(非常に稀ですが)
考えられる原因は、目が乾いて本当に目を閉じたくなっている、聞き取れなかった等あると思います。特に「ぬ」や「ね」などは音が似ているため同じ言葉としてとらえてしまっている可能性があります。
「塗り絵の『ぬ』、塗り薬の『ぬ』ですか?」
「猫の『ね』、眠るの『ね』ですか?」
などと質問を少し詳しくして質問し直すか、しばらく休憩を取ります。

5.あきらめない姿勢

目を閉じる動きは、出来ない時の方が多く、何回も同じ質問を繰り返すこともしょっちゅうです。
一日数回行うと動きが鈍くなってくるので(おそらくエネルギーを大量に使う行為なのだと思います)一文字判別するのにも3日前後かかります。
それでも現在の父の状態でもコミュニケーションを取る手段があったというのは、画期的なことでした。

あきらめずに言葉を聞き続ける姿勢が大事だということを教えていただいた山本先生に感謝しています。
そして頑張って生き続けている父のために、これからもできる限り言葉を聞き続けていこうと思っています。

6.課題

今回の父の要望を聞くことで、実質的に家族の負担が増えました。
ストレスの多い生活をしているので、本人が伝えたいことはそのストレスの除去に関することが多くなります。
自薦ヘルパーの制度等をもっと活用して、本人だけでなく家族もより良い生活ができるようにすることが今後の課題です。

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